オープン日

船寄 剛写真展「Flags and Stadium, and You 」開催のお知らせ

2021.10.07

「僕は5ドルしか持ってないんだ」
そう言って僕は恰幅のいい黒人に話しかけた。
彼は少し怪訝な顔をし、10ドルのチケットを差し出した。

礼を言い、急いで球場に入ると、3人の少年に目が留まった。
ソーサ、グリフィー、ジーター。
スター揃い踏みだ。

翌日も、またその翌日も、僕はその黒人を目指した。
「また5ドルマンが来たぞ!」
彼は周囲にそう叫び、笑っていたが、4日目にはタダでチケットをくれた。
もちろん、初めから僕のウソはばれていた。

もうすっかり彼の声色も笑顔も忘れてしまったけど、
彼との間に親密なひとときがあったことを、
今でも温かい気持ちと共に思い出すことがある。


船寄 剛写真展「Flags and Stadium, and You 」
会期:2021年10月31日(日) 1日限りの展示です。ご注意ください。
時間:12:00 〜18:00

■作品説明

2001年9月と10月にアメリカ各地で撮影した作品を展示します。

会社を辞めた翌月、ニコンFM2を1台持ってアメリカへ向かいました。
その年デビューしたイチローや野茂英雄を各地の球場で観戦するつもりでしたが、
到着早々に起きた東海岸での惨禍により、計画は頓挫しました。
そして陸路で長距離バスや列車を使う、のんびりした旅路になりました。

移動した先々で出会う集会やパレードでは、これまで観たこともない数の、
そして巨きさの星条旗を目にしました。
時折、非常時におけるアメリカ人の本質の一部を垣間みることもありました。

また、この旅ではポートレートを撮ろうと思っていました。
拙い英語で交渉し、向き合い、大切な何かを交換し、
形に遺そうと思っていました。

カメラの使い方もよく解らず、ブロワーさえ持っていない初心者でしたが、
人生のトンネルの先に写真の道をおぼろげながら見出していた頃でした。

この旅の写真をいま見返してみても、大切なやりとりの痕跡は
いくらか見受けられるし、素人同然ではありましたが、
私の最初の作品群であると、いまの私は認識しています。

星条旗とベースボールと、あなた。
20代だった私の、憧れや想いがつまった旅でもありました。

■プロフィール

船寄 剛(ふなよせ たけし)
写真家。
1974年 鳥取県生まれ
関西大学社会学部社会学科卒

郷里の風景や人々を記録しつつ、近年では野球をテーマに作品制作を行う。

instagram:https://www.instagram.com/takeshifunayose/
note:https://note.com/takeshifunayose